2010年5月12日水曜日

「小さい子が歪んだ家に長く暮らすと歪んだ性格になってしまう」は本当か?

川崎草志さんの『長い腕』(角川文庫)に書いてあったそうです。これは小説家の意見であり、きちんとしたデータに基づいた記述ではないと思います。
 
さて、それでは本当にそういうことはあるでしょうか。残念ながら、私は直接それに答えるデータを知りません。したがって、状況証拠的な話をいくつか並べて みようと思います。
 
エイムズの歪んだ部屋の実験は有名です。家の近所の施設にもそれに近い部屋があるのですが、あれは気持ち悪くなりますね。長いこと居たくはない。そういう 環境は人に悪影響を及ぼす可能性はあるでしょう。
ただ、性格が歪むというよりは無気力になる可能性の方が高いのではないでしょうか。空港近くで騒音に晒された子供は課題に対する持続力が劣るという研究結 果があります。不快が続き、それを改善する手段を持たないと、学習性無力感が生じ、頑張らなくなるのではないかと。
そういうことはあるにしても、性格を歪ませる力が環境にあるとは思いません。歪ませるのは人でしょう。周囲の大人や年長者の扱いが性格を歪ませる力を持つ のだと、経験的には思います。
 
そう、性格は環境だけで決まるものではない。宮脇檀さんが、ぼろ屋に居ても幸せな二人もいれば、豪邸に住みながらバラバラな家族もいるという文を書いてい ます。つまり、環境がすべてを決めるのではなく、どちらかというと脇役だということです。
家庭の幸せの条件を1つ挙げるのであれば、私は帰ってきたときほっとする人間関係を維持できていることを挙げます。豪邸かどうか収入の多寡とかは、影響は あるにせよ、人間関係より小さな影響力しか持たないのではないかと思うのです。
 
環境心理学のテキストに、ひきこもりの子供がいる家の調査が紹介されています。それも参照してみてください。そこでの解釈は、引きこもりは親など人の影響 であり、親は環境を形作る時にも影響を持つので、ある共通性が生まれたのではないかというものでした。

結論です。
家の歪みがストレスとして影響を及ぼすことはあるでしょう。しかし、それは性格の歪みに繋がるものではない気がします。また、人間関係などが良好であれば 必ずしも無気力になったりもしないのではないでしょうか。



2009年11月12日木曜日

マクドナルドのテーブルは、昼はくっつけ、朝は離す!?

質問に答えるパターンではないけど、面白い話なので紹介します。昨年卒業した
学生から聞いた話です。
彼女はマックでバイトしていました。
朝マックに来るお客さんは、一人であることが多いのでしょう。テーブルは離し
ておくのが基本です。
昼マックに来るお客さんは何人かで連れ立ってくるのでしょう。くっつけてグ
ループが座りやすくします。
 ここからが、彼女の(店の誰かの!?)工夫です。
「朝は、並置しているとお客さんがくっつけちゃうので、テーブルは斜めに配置します。そうすると、お客さんが通りやすくなるんです。」
 
みごとな環境心理的工夫だと思いませんか!!!
 

2009年7月20日月曜日

パーソナルスペースなどが活かされた環境デザイン事例は?

「人と人の関わりにおいて距離やパーソナルスペースが関係していることを学び
ました。それが、どのように環境デザインに応用されているのか知りたいです。」
授業も終わりに近づいた先頃、こういう趣旨の書き込みをもらいました。

人と人の関わりを考慮するのは建築設計の常であるから、取り立てて言うほどの
ことはない。どこでも考慮されているという意見もあるでしょう。しかし、オズ
モンドとソマーが病院の待合を改良したとき、それは会話を促進するようには
なっていなかったのです。待合いの時間を楽しく過ごしてもらうにはどうしたら
いいか、という気づきがなければ、ただ椅子を並べただけになるということで
しょう。
 
さて、そうは言っても、取り立てて言うほどの事例がどれほどあるのか...。
私が思いつくのは茶室です。2畳ほどの極めて狭い空間に豊臣秀吉を招き入れた
利休は、その空間では対等な、もしくは自分の方が優位に感じていたかも知れま
せん。あえてパーソナルスペースの内側に入らざるを得ない状況を作り出したこ
とが、そういった人間関係の場面を生んだと考えられるように思います。
もっとも、それを秀吉が許せなかったから切腹させられたのかもしれませんが。
今春、京都の山崎まで行く機会があったのですが、『待庵』は訪れずじまいでし
た。中に入れないのなら、意味がないかと思って。
 
少し話題がずれました。
その他の事例についてはコメントで書き込んでいただけるとありがたいです。私
も思いつけば追加コメントしたいと思います。
 

2009年6月21日日曜日

ロイヤル・コペンハーゲンのブルー、和食器のブルー。 なぜいいの?

AFTの会場での「暖色が食欲を高める、は本当か?」という話から発展した質問。
「ロイヤル・コペンハーゲンに紺が使われ、和食器にも紺のいいものがある。な
ぜ、寒色なのにいいんでしょうか。」
 
食べ物は暖色系が多い。4色運動というのをご存じだろうか。「赤」「黄」
「緑」「白」の4色の食べ物を取れば、タンパク質、脂質、野菜、糖質などがバ
ランス良く摂取できるというものである。そう、寒色系の色は登場しない。敢え
て挙げるなら「なす」くらいだ。それなら、食べ物の色が暖色でない場合に食欲
がわかないのは、見慣れないせいかもしれない。
 
では器やインテリアは?
「中華のどんぶりが赤いのは食欲を増すため」、「部屋が赤いのも食欲を増すた
め」。いや、たぶん、中国では赤は慶事を象徴する色だから用いられているのだ
ろう。「マクドナルドの看板は赤い」。それは食べ物の色を象徴しているかも知
れないが、町中で目立つように誘目色を用いたという部分もあるかも知れない。
「普通の部屋はベージュでしょ」。そう、それが普通。
このように考えてくると、必ずしも暖色だから食欲を増すとは言い切れないよう
な、他の原理でも説明できるような気分になってくる。

そこで件の質問である。
私の考えとして、まず、食べ物をおいしく見せる背景として、白と暗い色の2種
類があるのではないかということを話した。フランス料理の皿は白いことが多い
が、それは食べ物を引き立たせる。また、楽焼きの黒や備前の茶なども、食べ物
を引き立てることができると思う。二色配色の評価をしてもらうと明暗の差が大
きな2色で構成された配色の評価が高いことが多いが、食べ物と明暗の差が大き
くなる、暗い色はいい味が出ると思う。
それで、ロイヤル・コペンハーゲンは白がベースであり、和食器の方は紺という
暗い色がベースなので、少し事情は異なると思うということをしゃべった。
これは、暖色が背景となるのがいいという考え方とは別の考え方である。
考えてみれば、刺身にバランを添えたり、竹やガラスの器にそうめんを盛った
り、青い切子のグラスに日本酒を注いだり。別に暖色系でなくても食欲を増すこ
とがある。活きが良く見えることや、涼しげな風情が食欲を増したと考えるのが
妥当だろう。バターのパッケージを黄色以外にすると売れなかったというのも、
赤もダメなのだから暖色かどうかの話ではない。イメージの話だろう。
...というように、暖色だから食欲が湧くとか寒色だから湧かないとか、そう
いうことではないような気がする。
 

2009年6月14日日曜日

集中できる部屋の色は?

これはAFTの会場で受けた質問です。学生からの質問にも同様のものがありまし
た。みなさん、集中したいのにできないことが多いのでしょうか。確かに、私も
しょっちゅうありますが。
 
さて、まず最初に紹介したいのは、学校環境について調査している人のつぶやき
です。建築学会で計画系のセッションを聞きに行った時のことでした。「教室環
境をいろいろ変えても、結局先生と生徒のやる気なんだよね。環境の影響をなか
なか影響抽出できなくて、困るんですよ。」と、そういうニュアンスの発言だっ
たと思います。教室環境を様々変えても影響が抽出できないくらいだから、一般
的には色は小さな影響しか与えていないと思われます。(無茶苦茶などぎつい色
にすれば別ですよ。)
 
それでも色を変えたら、効果が上がることはあるかもしれません。自室の色を自
分で変えたのなら、それは「やらなきゃ。」と思った証拠ですから、その思いを
大事にする(思い起こす)のに色の効果がある、そういうことは考えられると思
います。
 
せっかく変えるのであれば、自分の好みの環境にしたらいいでしょう。色だけで
なく、素材や物もいじって好みの環境にしてしまうのです。それは人によって違
うと思いますが、好みの環境の方が、やる気が出るということはあると思いま
す。ただし、浮気の元は禁物。好きな音楽、好きなテレビ、好きなゲームを取り
そろえた環境で集中できないのは明らかです。
 
私は、昔は音楽を聴きましたが、今はまったく聴きません。それは、音が邪魔す
るようになったからです。そのきっかけは文章を書くこと。論文や本を書く時、
相当に集中しないと書けません。私にとって負荷の大きい作業なのです。高校生
の頃、ラジオを聴きながらでも勉強できていたのは、実は勉強していたのではな
くて、教科書の英文をノートに転記したり、わからない単語の意味を調べて書き
込んだり、そういう「ながら勉強」に向いたことをやっていたに過ぎません。本
当に集中しないといけないのなら、そういう気分になるまで待たないといけない
し、そういう時には周辺環境の刺激が強すぎるのはマイナスでしょう。
よく、家族の声やテレビの音がない深夜になってからレポートを書くという学生
がいますが、そういうことです。
 
というように、壁の色は一般的な範囲であればそれほど問題なく、それ以外の様
々な要因の方が、強い影響を持つだろうと思います。
今度、集中するためにどんなことをしているか、学生にアンケートでもしてみま
しょうか。

2009年5月27日水曜日

照明の明るさや色が、心理にどのように関わってくるか教えてください

みんなに「環境心理学で何を学びたい」と問うと、一番多いのがこの手の質問で
す。これから始めてみましょう。
 
明るさの指標の一つに照度があります。掌を上に向けて見た時、それがどれだけ
明るく見えるかと対応する指標だと思ってください。その値が大きくなるほど、
照明環境は好まれます。人は明るい場所が好きなのです。虫は街灯に引き寄せら
れますが、人も向こうに明るいところがあると行ってみたくなります。これも、
明るい場所が好きだということを表していそうです。
オフィスや商業施設は明るいことが多いですが、これは覚醒(arousal)が高ま
ることと関係しているでしょう。一方、音楽を聴きつつワインを楽しむシチュ
エーションであれば、照明は暗くなりそうですね。リラックスした状態は、低照
度でもたらされることが多いと言えると思います。
面白いのは、高照度には青白い光が、低照度にはオレンジ色の光が似合うという
実験結果があることです。蝋燭の仄かな光から、蛍光灯の均一な明るさまでをイ
メージしてみると、確かにだんだん青白くなるのが自然な感じがします。
そう言えば、朝日の時刻から昼、昼から夕方の屋外の光の状態を思い浮かべる
と、色と明るさが上述のように変化しています。人の好みは、長い間生活してき
た自然界の光の状態の影響を受けているのかもしれませんね。...遺伝子に組
み込まれている!?
 
K. Maki

2009年4月22日水曜日

「環境心理学」で知りたいこと

「環境心理学」という授業を始めて、ずいぶん経つ。授業の初回に何度か「この授業で何を知りたいか?」を尋ねたことがある。いかにも環境心理的なものもあれば、人生相談的なものもあった。それらの中から、いくつかピックアップして、月に1度くらいは回答らしきものを書き込んでみようという企画である。
環境心理の専門家集団にも、問いを投げかけてみようかと考えている。回答を寄せてもらうことができれば、私にとっても勉強になることがあるに違いない。

ちくりん